起業する際によく質問を受けるシリーズの第五弾として、役員報酬の設定をいくらにすれば良いかについて、節税の手法と関連付けて紹介していきたいと思います。
役員報酬の基本
役員報酬を考える上で認識すべきことは、法人側はこれを経費として取り扱いますが、一方で役員個人としては給与所得となるため、所得税の課税対象となってしまう点です。
法人からすれば、経費として計上できるものがあれば、より多く計上したくなりますが、個人にとっては、役員報酬をもらい過ぎてしまうと、所得税の負担が重くなってしまい、税効率が下がってしまいます。
所得税も法人税と同様に固定税率であれば、税効率の検討も難しい話ではないのですが、所得税率が累進課税(所得が増えれば税率も上がる)となっているため、キャッシュフローを最適化するポイントを見つけることが難しい状況となっています。
また、毎月の役員報酬部分については、社会保険の絡みもあるので、この部分を考慮すると、さらに難解な問題となってしまいます。
ただ、個人的な見解になりますが、起業したての一人社長が役員報酬を決定する上で、最も重要となる点は、自らの生活が年間いくらあれば足りるのかということだと思います。試行錯誤して税効率が最も良い方法で役員報酬を決定したとしても、結果、自らの生活が苦しくなってしまったら本末転倒だと思います。
したがって、まずは自らの生活を第一に考えて金額を設定し、その上で税効率の観点からシミュレーションすることが最も良い方法と言えるでしょう。
役員報酬の支給方法
役員報酬を会社の経費にするためには、次の二つの要件を満たしている必要があります。
- 毎月同額を支給していること(いわゆる定期同額給与)
- 不相当に高額でないこと
まず1.について、役員報酬は原則として年度の途中で金額を変更することができません。ただ、事業年度開始から3か月以内(決算後の定時株主総会で決議)であれば、一度だけ改定が認められています。つまり、定時株主総会までに、毎月いくら支給すれば良いか検討する必要があります。
次に2.についてですが、同業他社や会社の業績等を鑑みて、相場からかけ離れた金額を支給することは経費として認められないリスクがあります。 ただ、会社が稼いだ利益の中で、社長である自分の給料を決めている以上、これを否認されることは極めてレアケースと思って頂いてよろしいかと思います。一方で、家族を非常勤役員としている場合など、その役員の勤務実態と報酬相場がかけ離れているケースは否認リスクがあるので注意しましょう。
最後に、賞与については、従業員の場合と異なり、役員に対するものは原則として経費計上が認められていません。ただし、事前に税務署へ届出を提出していれば経費計上が認められる(いわゆる事前確定届出給与)ので、役員へ賞与を支給する場合は、この手続きを忘れないようにしましょう。届出の提出期限は、①事業年度開始4か月以内、②株主総会の決議日から1か月以内のどちらか早い日となっています。もし提出が遅れたり、届出で決められた日に決められた金額が支払われなかった場合には、その全額が経費と認められないので注意が必要です。